第116回「ライター修業徒然草」第一段「筆力がある」

●筆力とはこなれた文章を書く力
 ライター歴、40年。どのようにして原稿書きの要領を覚えて、生き残ってきたか。自分自身の棚卸を兼ねて、ノウハウらしきものをつれづれなるままに書き出してみたい。
 第1回。ライターにとっても、最良の誉め言葉は何か。「筆力」だ。
 私自身、書き手のはしくれとして、同業者の力量は、意外なほど簡単に把握できる。書き出しの冒頭の数行を読むだけでいい。たちまち筆力が分かる。
 筆力とは何か。ライターの総合力というしかない。たとえば、デスクとサブデスク格のふたりが、新しい外注ライターのテスト原稿のチェックを始めたとしよう。
 「そこそこ筆力あるな」「こなれた文章書いてますねえ」「採用や。あと頼むで」「分かりました」
 すぐれた書き手の原稿には、心地よい気配が漂う。デスクは忙しい。心地よい気配を感じ取ると、短いやりとりで採用を決め込む。筆力は「筆力がある」という誉め言葉でしか使わない。「筆力がない」とは言わない。
 「こなれた」文章も、独特の表現だろう。新球を受け取った投手が、しばらくてのひらでボールをこねて球をなじませる。あるいは棒高跳びの選手が、何度もポールを握り直してベストの感覚を体に呼び起こす。アスリートの感覚に近いかもしれない。
 取材や文献でかき集めた玉石混合、種々雑多の情報を、自分なりに咀嚼して、与えられた仕様の原稿に落とし込む。こなれた記事を書く力が筆力だ。
 以下、「まぶす」「うねる」「つらい受けの殺法」「合わせ技一本」「リード文の種類」などをテーマに書き進むつもりだ。