第119回「ライター修業徒然草」第四段「四字熟語で威風堂々」

●「次は首位打者 年俸倍増で勇気凛々」
 ライターは忍者であるべし。忍者の最大の使命は何か。生き延びて生還することだ。危機に直面しても決してあきらめない、わずかながらも可能性があるかぎり技を繰り出し、敵の目を欺いて窮地に活路を開く。
 ライターも、ときには玄人筋ですこぶる評価が低い紋切型表現を逆手にとりたい。たとえば、四字熟語。見出しに使うと景色がいい。阪神タイガース関連でいくつか即興で作ってみよう。
 「猛虎五連勝の威風堂々」
 「ドラフト成功 若トラ群雄割拠」
 「死のロードでけが人続出 打順は二転三転 継投七転八倒
 「打撃不振で三日天下 首脳陣右往左往」
 「新人王確定 空前絶後の150メートル弾」
 「次は首位打者 年俸倍増で勇気凛々」
 見出しを目で追うだけで、だれもが記事の内容を一瞬にして把握できる。読み手は十全の情報や知見を見出しで入手し、心のふところにためができている。記事を読み進むうちに想像力の翼を広げ、目には見えない同志たちとの連帯感を深めることさえ不可能ではない。軽快にて豪壮。かゆいところに手が届く。紋切型常套句、最大の利点だ。
 四字熟語の多くは物語を持ち、長い歴史に揉まれてきただけに、いずれも味わい深い。ただし、乱発は避けたい。毛嫌いするデスク・編集者やクライアント(PR誌などのコピーワークの場合)も少なからずいる。身を守るためにも、使用はちゃんと空気を読んでから。用意周到、一騎当千。ライターなら四字熟語辞典を座右の書に加えたい。