第117回「ライター修業徒然草」第二段「まぶす」
●平板になりがちな原稿をひと手間で立体的に
好記録を達成したスポーツ選手とコーチに話を聞いた。取材はまずまず。できあがった原稿をデスクに渡す。
「こんなもんやろうが、ええ話ばっかりやなあ」
不満があるらしい。
「苦労話をちょっとまぶそうや。けがしたことやら、コーチと仲たがいしそうになったことやら」
まぶす。限られた準備と取材では、どうしても記事が平板になりがちだ。とはいえ、再取材をするひまはない。明暗、緩急、内外、長短。原稿に不足している反対要素を、少しだけでいい盛り込もう。おかずがないときにも、ご飯にごま塩をぱらぱらっと振りかけておにぎりにするだけで、ただの握り飯がぐっとうまみを増す。
新しいデータでなくてもかまわない。「苦しいけがが続いたものの」「対話不足から来るコーチ陣との感情的すれ違いも消えて」。生原稿時代なら、原稿用紙の記事にしゅしゅっと入れ稿して直したらおしまいだった。ひと手間でいい。まぶす。