中小企業という名の小宇宙(2)弁当昼食会で30万円ポン!

 けさ、近くの公園をジョギングしていると、ことし初めてウグイスの鳴き声を聞きました。大阪も春近しです。
 ジオラマ制作のC社。世界遺産候補の古墳の精密模型から、首都圏・関西間の街並みを俯瞰(ふかん)できる全国最大規模の鉄道ジオラマまで、多様なジオラマの制作に取り組んできました。
 同社躍進の原動力は全員開発態勢。社員は20名あまりで、経理総務などのものづくりに直接かかわらない部署の社員までが、製品開発のアイデアを絞り出す。すぐれたアイデアには開発費30万円が支給されます。使い道は発案者の自由裁量。発案者は安心して開発に没頭し、独創的な商品を生み出してきました。印象深いのは開発資金投入の決定方法です。
 毎月1回開かれる全員参加の昼食会。みんなで仕出し弁当を囲む質素なものですが、この場が開発会議を兼ねています。アイデアを提案し、「おもしろそう」という反響が集まれば、全員のあうんの呼吸で採用決定。度重なる討議や稟議書、決済に悩まされることはありません。気前のいい話ですが、経営陣によると、この「30万円ポン!」方式を採用したところ、結果的に全体の研究開発費を低く抑えることができるようになったそうです。
 社員の大半はジオラマに魅せられし者たち。地方鉄道のジオラマ制作をもくろむ者は、自腹を切って旅に出掛けて、鉄道に乗り、沿線を歩き回り、創作意欲をかき立ててくる。社員の中には「30万円ボン!」を当初から当て込んで動いている者もいるという。しかし、たとえ晴れて30万円の資金提供を受けても、自腹持ち出し状態になっている人もいるのではないでしょうか。
 すべてをジオラマのために。C社の社員たちは開発資金も給料も有効に活用しています。若い女性社員と名刺交換をした際、彼女ははにかみながら「もう一枚、名刺を出していいですか」と切り出しました。受け取った名刺には「ジオラマ作家」とあります。
ジオラマ作家って名乗ると、なんかすごそうで、もっとジオラマに注目してもらえるのではないかと思いまして」
 会社公認の二枚看板。ジオラマ愛のなせる業でしょう。自身の仕事に誇りと責任を持つ「二枚看板方式」は、「30万円ポン!」方式とともに、もっといろいろな職場に広がってほしいものです。
 朝からの取材がのびて、気がつくと、正午を回っていました。帰り際、別室をのぞくと社員の皆さんが集まっています。ちょうどこの日が、昼食会の開催日でした。空腹をこらえつつも皆さん、弁当を開けることなく、取材が終わって全員がそろうのも待っている風情。失礼いたしました。これからも心揺さぶる素晴らしいジオラマの登場を期待しています。