ご神仏の仕事学(6)聖徳太子のもうひとつの顔

 四天王寺の広い境内の一隅に「番匠堂」と名付けられたお堂があります。番匠とは大工さんを指します。お堂の中には大工のシンボルである曲尺(かねじゃく)を携えた聖徳太子像がまつってあります。「曲尺太子」とも呼ばれ、聖徳太子は大工の神様として、全国の建築関係者の崇敬を集めています。聖徳太子は、「和をもって貴しとなす」の「十七条憲法」でおなじみですが、大工の神様でもある。まさに文理両道でした。
 太子が四天王寺を建立する際、朝鮮半島百済から最新鋭の建築技術を導入。伽藍建設に伴い、樹木の命を奪うことになってしまう。そこで、鋸(のこぎり)などの大工道具に仏性を入れたうえ、大工道具のかたちで「南無阿弥陀仏」の名号を書いて、工事の安全と建立を祈願されました。
 お堂を守るようにして風にはためくのぼりを、よくみてみましょう。南無阿弥陀仏の六文字が、それぞれ大工道具で構成されています。たとえば「陀」は、釘貫(くぎぬき)、鎌、小刀、鋸などでできています。今では読み方が分からない名前の大工道具が少なからず含まれていますが、力強いデザインから、霊的パワーがなんとはなしにですが伝わってきます。
 さきほど曲尺を大工のシンボルと書きましたが、ふと思い出しました。「仕事の現場(6)左右反対の鏡の世界」でリポートした「倍尺」は、新聞社の整理記者のシンボルだったといえます。ものさしは基準を決めるもの。それぞれの職業の憲法、背骨のような役割を背負っています。
 太子は日本社会にたくさんいらっしゃる職業神のおひとりです。十七条憲法は国づくりのものさし。曲尺も国づくりのものさし。太子の偉大さが改めて浮かび上がってきます。