ご神仏の仕事学(8)子猫から三段階で大出世

 見上げんばかりの巨大灯篭から、手のひらサイズのお人形さんへ。住吉大社で繰り広げられる立身出世のファンタジーの世界へご案内しましょう。
 私の手のひらに鎮座するのは「初辰(はったつ)人形」。身長三・六センチの小さな土人形です。毎月初めての辰の日に行われる「初辰まいり」に定められたルートで参拝すると、楠珺(なんくん)社で授けてもらえます。人形は猫で、商売繁盛の招き猫の住吉版と考えてもらえればいいでしょう。
 子猫のポーズは二種類。偶数月に参ると、右手を挙げてお金を呼び込み、奇数月は左手で顧客や優秀な社員を招いてくれます。四年間四十八か月続けると、商売が「始終(しじゅう)発達(はったつ)」するとされています。
 励みになるのは、皆勤賞のごほうび。四年分四十八体の子猫を神社に持参すると、立派な中猫に交換してもらえます。さらに中猫二体(八年分)プラス子猫四十八体(四年分)が、身長二十センチの大猫に出世します。小から、中を経て、大へ。三段階ステップ出世方式です。
 右手使い、左手使いの二匹の大猫をセットでそろえるには、実に二十四年もの歳月が必要になります。二十四年の皆勤賞受賞者がいらっしゃることに驚きますが、取材した十年前の時点で、三体目の大猫獲得に挑む「永年皆勤候補」がいらっしゃるとのことでした。あれから十年、晴れて三体目を獲得されたことでしょうか。
 大猫が二体、店やオフィスの一隅に鎮座しているだけで、その会社や経営者を信頼できると思います。二十四年間、二百八十八か月、雨の日も風の日も、一度も欠かすことなくお参りを続けてきた。商いは牛のよだれのごとく、毎月増えて、やがて大きくなる初辰さんのごとく。堂々たる大猫は、十分すぎるほどの与信力になるのではないでしょうか。
 小さな子猫がある日突然、不意に中猫、大猫に変身する。しかし、そのまばゆい飛躍は偶然でも奇跡でもない。地味で目立たぬ努力や継続こそが、まばゆい飛躍の源泉である。清廉かつ粘り強い企業家精神に基づく、大阪発のファンタジーです。