第82回「しごと談議」(27)「私はいちばんの候補者に投票します」

●自分の意見を主張しません宣言
真面目に選挙制度改革に取り組んでいる皆さんが読んだら、湯気をあげて怒りそうな話になるかもしれません。
 江戸時代の大坂。曲がりなりにも大商人たちによる自治制度が確立されていました。現在の区長に相当する町役人を決める選挙もありました。
 ところが、この選挙がなかなかおもしろい。限られた有権者であるあきんどたちには、「私はいちばん投票数の多い候補者に一票入れます」という不思議な投票が認められていました。
 余計な波風は立てたくない。みんながいいという人物なら、私もその人でいい。町の和を継続できるなら、自分の意見など主張しませんという徹底した同調迎合主義です。
 せっかくの権利を自ら放棄するわけですから、自分の意見をはっきり言いましょうと教わっている今の小学生たちからは、「えーっ、この人おかしい!」と、ボロッカスに言われるかもしれません。しかし、争いごとを好まないあきんど衆らしい意思決定方法だともいえます。

●文化とはくせや勘違いや思い込み
 わたしはケレン味を好む人間ですから、芝居がかったいわゆる政局ものが三度の飯より大好きですが、政局が度を過ぎると、政治の停滞、混迷が生じ、政党や内閣すらつぶれてしまう事態も、いちどならずありました。
 「いちばんの人に投票」というずっこけてしまいそうなゆるゆる投票態度は、こうした政局による混乱を避けるには、賢い選択だったといえます。
 文化とは、くせや勘違いや思い込み。民主主義には理想のモデルがひとつあって、それ以外は一刻も早く是正すべきと考えるのもけっこうですが、理想のモデルというのはこの世には存在しない、すべてくせのある、あくの強い現実モデルであるのではないかという考え方も、成立するかもしれません。
 その現実モデルがどの程度きちんと機能するかは、やはり当事者たちのオペレーションで決まるのではないか。次回は、ただひたすら時間をかけて話し合うという意思決定方法をご紹介します。