第91回「しごと談義」(36)農民・野武士・傭兵・自由人

●戦国の世を闊歩した一人四役の曲者たち
 『戦国の世には領主よりの年貢の取り立てに応ずる従順な農民たるをいさぎよしとせず、武器を手にしたいわゆる野武士たちが横行した。彼らは時には一種の傭兵として、その時その時の形勢に応じて、戦争を請け負ってきた一種の自由人であった』(「『にじみ』の日本文化」剣持武彦著、21世紀図書館、PHP刊)
 この一種の自由人とされている野武士たちは、国衆と呼ばれた真田一族よりも、さらに何クラスか弱小のグループだろう。数人、あるいは精々何十人単位で徒党を組み、あちらこちらにぶれながら生き抜こうとしていたのだろう。おのれは何者なのか、はたしてどこへ行こうとしているのか。本人たちにも半ば分からない。戦国乱世とはそんな時代だったのではないか。
 六文銭なり毘沙門天なりの旗の下に集まってはいても、大半はこの手の個々人で構成されている集団だ。いわしの群れのように大きくうねりながら疾走することもあれば、一瞬にしててんでばらばらになってしまうこともある。
 だから日本の戦いは長続きしない。天下分け目のと枕詞の付く関ヶ原の合戦大坂の陣も、戦闘自体は二日もあれば終わってしまう。野武士たち、実は好戦的ではない。むしろ戦いに淡泊なのである。
 と書いて、例外に気付いた。戊辰戦争だ。時代こそ違うものの、土方歳三たちが粘りに粘って、一年以上も戦い抜いた。これだけでも十分に不思議な男たちだ。