第93回「しごと談義」(38)ことばにこだわりを持たない日本人

●言霊思想は江戸期国学者のいじましい創作
 「江戸時代の国学者たちは躍起になって言霊思想をつくりあげ国粋主義を鼓吹したが、日本人はもともとことばに深い信頼感や神聖感をもっていないのである。これは日本民族が、世界でも稀な文化的、言語的、生活的な単一性を保持してきた民族であったために、言語を征服されるとか言語を奪われるとかいう経験が無く、ことばでなくて通じあいの出来る民族だったからであろう。いやな感じのことばや不吉な感じのことばはいいかえることでその事柄そのものも消えてしまうような感じを持つほどに、ことばにこだわりを持たないのだ」(「『にじみ』の日本文化』剣持武彦著、21世紀図書館、PHP刊)
 あまりにも身も蓋もない言い方で、ライターのはしくれとして、なんとかことばで飯を食いつないできた人間のひとりとしては、もう少し言葉の重みや深さを信じたい。しかし、言葉の力を唯一無二の信仰に奉ってはいけないということだろう。
 健さんは寡黙だった。日本人はことばでなくて、何によって通じ合えるのか。