第100回幻の世界仕事人図鑑

●昆虫採集のように土地土地の仕事人を探しに行く
 人に会って話を聞くライター稼業をこなしながら、ひとつ夢があった。この世にどんな仕事が存在するのか、調べてみたい。できれば昆虫採集のように、地球上をあちこち歩き回り、土地土地の仕事人と出会う。
 許しを得られたら、どんな仕事なのか、やりがいは奈辺にあるのか教えてもらう。写真も撮らせてもらい、「世界仕事人図鑑」に組み入れていく。
 日の当たらない場所を好む昆虫や植物が少なくない。だから、裏稼業の人たちにもアプローチしたい。詐欺師、盗っ人の類だ。「詐欺師の理想とは」「尊敬する盗っ人は」「座右の銘は」などと、作業手順や仕事哲学をまじめに聞き、まじめに答えてもらう。
 時の移ろいとともに消えてしまう仕事もあるだろう。筆者の業界筋では、写植オペレーターはいなくなったのではないか。しかし、写植が出てくる前の活版印刷の仕事は、一部ながら町なかの印刷屋に残っているらしい。活版印刷独特の凹凸感が、若い人たちに再評価されているという。活字が残る限り、文選や大組という仕事も同時に受け継がれているはずだ。
 仕事の多様性は、そのまま人間や社会の多様性につながる。絶滅職種、絶滅危惧職種の調査研究も必要になってこよう。しかし、うっかりしているうちに筆者の持ち時間はすっかり少なくなってしまった。残念だが、しょうがない。