第107回大作「日本沈没」に出演(したらしい)

●「ドボーンと海へ落ちるやつはおらんか」
 学生時代のバイト噺、今度はエキストラ出演。小松左京原作の大作「日本沈没」。朝早く都内からバスに乗せられて伊豆半島へ。日本列島が沈没する際、難民たちが船で確か朝鮮半島へ逃げるシーンの撮影だった。
 「3時間ぐらいで3千円」とかのふれこみだった。バイト代の相場が日給2000円ぐらいの時代。俳優たちの顔も拝める。まずまずのバイトだろう。大学が冬休みのころだったか、木枯らしが肌を刺す。おまけに大きな扇風機でゴーゴーと風を送り込む。
 海岸伝いに難民たちが船へ乗り込むシーンを何度か繰り返す。OKが出ない。緊迫感が足りないらしい。助監督風の男が突然、大声で呼びかける。
 「ドボーンと海へ落ちるやつはおらんか。1万円出す!」
 仲間と顔を見合わせて「俺?」「無理ムリ!」。ところが、ひとりの若者が「やります!」と、名乗り出た。役者のタマゴ風。さすが根性が違う。
 さながら海の階段落ちだ。彼は派手に落ちて見せた。お見事。結局、えんえんと船に乗せられ、晴れて解放されたのは10時間ぐらい後だったろうか。
 完成した映画を観た。海上をさまよう船のシーンは15秒ほど映っただろうか。ヘリからの撮影分だ。10時間で15秒。茶色いコールテンの上着を着て、船酔いで青白い顔付きのにいちゃん難民が、ちょっとでも映っていたら、筆者である。