第109回誠実そうな「氷山の一角」くんを信頼する私たち

●いつも幸せそうな「氷山の一角」さんがうらやましい
 「まさかこんなひどいことをするなんて」。著名人の不祥事や組織の異常事態が表沙汰になった時のよくある反応のひとつだろう。「ショック…」「あいつはブレた」「裏切られた」となる。ひいき筋の不祥事には、筆者も例外ではない。
 落ち込みながらも、少し違うかもしれないと思う。見えているのは「氷山の一角」だ。「氷山」にとってではなく、見ている自分にとって望ましく、都合の良い「氷山の一角」だ。私たちは日々、誠実そうな「氷山の一角」くんを信頼し、いつも笑顔の幸せそうな「氷山の一角」さんをうらやましく思い、まちを歩けば、たくさんの安全安心で心地よい「氷山の一角」とすれ違いながら生きている。
 水面下に沈んでいる素顔は知らない、分からない、見たくもない。互いに互いをあまり知らないまんま生きている。善悪、清濁、黒白、安全危険、前後左右。氷山は森羅万象もろもろの成分をどっぷり呑みこみ、あやういバランスを保って浮かんでいる。漂流しながら刻々と姿を変えていく。自浄作用が働くだろうし、悪に染まりやすいかもしれない。
 氷山本人にすら、全容解明はむずかしい。それでも、そこそこまともに暮らし、まずまずまともな世の中にするには、互いに何が必要なのか。みんな「氷山の一角」くんに「氷山の一角」さん。肝に銘じておきたい。