第112回スクラムが成立しない現代政治の悲しさ

●与党は歴史的善政を野党はコミュニケーションを
 昭和晩期のラグビー早明戦スクラムの情景は今と違っていた。
 ワセダFW陣はひとり平均10キロも軽い。早々と陣形を整え、低く構えてメイジを待つ。決死隊の覚悟だ。
 メイジFWはのっしのっしと歩いて集結。機械式の重戦車なので、全身を起動させるまで少々手間がかかる。肩や腰や尻を振って内燃機関や駆動装置の調子を試し終わると、パワー全開だ。
 ズン。ワセダはあらゆる手立てを講じてメイジ重戦車の圧力に耐え抜き、圧力をそらす、かわす。メイジはワセダの仕掛けを分かっていながら受けて立つ。
 激闘の末、勝ったり負けたり。大観衆が見守る中、名勝負のドラマとともに、政権交代が繰り返し成立していた。
 翻って現代の政界。政権選択選挙を迎えても、なかなかスクラムが組めない。
 野党陣営のメンバーが決まらないからだ。「おまえの隣は嫌だ」「おまえこそ引っ込め」などと、うちわげんかが続く。中には「ほんとはあっち側へいきたい」と言い出すのも。審判が注意するためキャプテンを呼ぼうとするが、選手に聞いてもだれがキャプテンか特定できないという。
 しょうがない。審判が「危ないから、ちゃんと組みなさい、ちゃんと」とアピールしたうえで、ズン。初めから勝負にならない。与党陣営の完勝は織り込み済みだ。
 与党諸賢にとっては、慢心が敵。おごることなく、野党を支持した人たちの声にも耳を傾けて歴史的な善政を行っていただきたい。
 野党諸賢にはなかなか言葉が見つからない。スクラムの組み方を忘れないうちに、戦えるチームになってフィールドに戻ってきてほしい。必要なのは、前日本代表監督のエディさんが高校ラガーに指摘したように、「もっとコミュニケーションしなさい」だろう。みんないい試合を観たい。