2013-01-01から1年間の記事一覧

ご神仏の仕事学(7)文化九年の広告代理店

「海の神様」として知られる大阪・住吉大社。仕事文化にまつわるフォークロア的感受性をさまざまに刺激してくれる魅力的な神社です。とりわけ注目したいのが、灯篭です。境内を散策すると、次々と登場してくる立派な灯篭コレクションに目を奪われます。 灯篭…

ご神仏の仕事学(6)聖徳太子のもうひとつの顔

四天王寺の広い境内の一隅に「番匠堂」と名付けられたお堂があります。番匠とは大工さんを指します。お堂の中には大工のシンボルである曲尺(かねじゃく)を携えた聖徳太子像がまつってあります。「曲尺太子」とも呼ばれ、聖徳太子は大工の神様として、全国…

ご神仏の仕事学(5)江戸っ子町奉行も「感動した!」

聖徳太子ゆかりの四天王寺。「大阪の仏壇」とも呼ばれ、広く大阪人の崇拝を集めています。伝統行事のひとつが「聖霊会(しょうりょうえ)舞楽(ぶがく)大法要」。舞楽は古代、仏教とともに大陸から仏教法会の式楽として伝わった伎楽(ぎがく)を受け継ぐ貴…

ご神仏の仕事学(4)頑固な封建エコ

ふるさと富山のお社に設置された一枚の案内板を手掛かりに、ご先祖たちに会いに、越中富山の新田開発の現場へ踏み込んでみます。いろいろな役職名が出てきますので、お見逃しなきように。 富山は地名の通り、名だたる山国。新田開発は急峻な山肌を滑り落ちて…

ご神仏の仕事学(3)アクセス可能な記憶装置

神社はアクセス可能な記憶装置。ありふれたまちなかのお社であっても、境内を歩けば、埋め込まれた記憶の糸口が見るかるはずです。 正月に郷里で撮影した写真を、いまごろになって整理していたところ、思わぬ発見がありました。 私のふるさとは北陸の富山市…

ご神仏の仕事学(2)新田開発と鎮守の森

江戸時代、河川が流れ込む湾岸部で、盛んに新田開発が行われました。 河川が運んでくる土砂を埋め立てに利用するものですが、大半を人力に依存する過酷な工事は成功率が低い。晴れて完成しても、台風で田畑が高波に呑み込まれてしまい、新田経営が破たんする…

ご神仏の仕事学(1)おみこし突入事件の真相

取材余話は、取材記者ならではの余禄です。 所定のテーマでつつがなく取材を終えて、そろそろ辞そうと、取材ノートをパタンと閉じる。腰を上げようとすると、「まあ待て、お茶を淹れ直すから」と引き留められる。こちらはひたすら恐縮するふりをしながらも、…

仕事の現場(12)守備に就く選手諸君に拍手!

学生時代に在籍していたサークルから、三十年以上もご無沙汰の私にも、律儀にOB会会報が送られてきます。最新号に目を通していると、OBたちの近況を伝える短信欄に、見覚えのある先輩の名前を発見しました。 ――ゼネコンで三十年、金融機関で七年。いずれ…

仕事の現場(11)機械油の匂い

最近、機械部品メーカーA社へ、取材でおじゃました際、懐かしい匂いと再会しました。 機械油の匂いです。亡くなった父親の匂いでもありました。 父は富山の代表的メーカーの一角であるB社に勤めていました。偶然ながらA社とB社は、ある機械部品分野で長らく…

仕事の現場(10)「さあさ、帰りましょ、帰りましょ!」

週休二日が当たり前になって久しい。しかし、昭和五十年代前半、私が勤めていた業界新聞社では、休みはまだ日曜日だけでした。 ただし、土曜日の勤務は、午後三時まで。いつもより二時間ほど早く終わるだけなのに、その日の社内は、朝からのんびりムード。ち…

仕事の現場(9)人生初の取材は帯締めの展示会

私がデパート関連の業界紙にいた昭和五十年代前半、デパート業界では「年商で天下の三越が安売りのダイエーに抜かれた」という事実が衝撃波となって伝わり、いまださまざまな波紋を引き起こしているさなかでした。 高度経済成長期は二度のオイルショックを経…

仕事の現場(8)「頑固一徹」という名の文化装置

無口で頑固。人間嫌いで融通が利かない。職人気質の人間たちと、どのように付き合えばいいのか。ふた通りあるように思われます。 ひとつは「従順なる太鼓持ち」タイプ。ひたすら下手(したで)に出て、職人さんを持ちあげて機嫌良く仕事をしてもらう。活字を…

仕事の現場(7)最後は松ヤニの出番

出張校正室では、各紙の記者が数名ずつ固まって、あちこちで店を広げています。 業界紙、機関紙、広報紙。少部数で読者も限定され、世間では知られていない新聞ばかりです。いつもは日の当たらぬ地味な仕事にうんざりし、不機嫌で口も重たい連中が、なぜか冗…

仕事の現場(6)左右反対の鏡の世界

昭和五十年代、東京・新橋の印刷所。出張校正室から工場へ降りてきました。大組み担当者にレイアウト用紙を渡すと、いよいよ大組み開始です。 一面ごとに一対一。私の新聞は四ページ建てですから、四つの台に分かれて大組みが始まりました。 レイアウトの方…

仕事の現場(5)××新聞さ〜ん、大組みで〜す!

私が新聞業界に入った昭和50年代、活版印刷の時代でした。 文選工と呼ばれる人たちが、鉛でできた活字をひと文字ずつ拾って、ひと文字ずつ一行ずつ、文章を組み立てていく。小組みとよばれる工程です。 当時の新聞は一行十五字組み。三十行の小さな記事でも…

仕事の現場(4)/長短可・委細面談・応相談

昭和五十一年、私が入社した求人情報誌は若々しい職場でした。社員の大半が二十代、三十代前半。四十代以上は幹部などのごく一部だけ。ほとんど二十代の編集部はとても仲が良かった。 ひとつだけ困ったのは風呂に入れないこと。毎日、仕事が終わると、編集部…

仕事の現場(3)ガリ版・和文タイプ・写植の切り張り

北陸のとある地方新聞社。昭和五十一年度は新卒を採用しません。それでも諦めの悪いひとりの学生が本社を訪ねますが、正面玄関ではなく、裏手の守衛室へ。学生ですけど編集局へ行きたいのですがと告げると、守衛さんがそうかと通してくれました。厳重警備体…

仕事の現場(2)「新卒要りませんか」「間に合ってるよ」

ここからしばらくは昭和の時代、小さなメディアで働いていたころの思い出話を聞いてください。今の若い人にはわからない仕事の仕組みが出てくるかもしれません。 昭和五十一年四月、私は大学を出て、求人情報誌の一員になりました。第二次オイルショックに伴…

仕事の現場(1)/アガサ・クリスティほか文庫本、十一本口!

大阪・四天王寺の青空古本市を冷かしてきました。境内に各店のテントが並ぶ関西最大規模の古本市です。 どこぞに掘り出しもんが、埋もれておらんかいな。私と同年配のおやじたちが、目を皿のようにして古本の山と格闘しています。あさって五月一日まで開催さ…

転職のフォークロア(9)腰だめのある指定管理幕府

徳川政権はとても日本的な政権でした。 自ら神をめざした信長や関白まで昇り詰めた秀吉は幕府を開きませんでしたが、家康は幕府という鎌倉以来の古い統治システムを再活用しました。艱難辛苦に耐え、ようやく天下を手に入れたのに、わざわざ朝廷から征夷大将…

転職のフォークロア(8)浪人たちが見上げた空

転職のフォークロア(7)「素浪人を温存する社会」で、大坂の陣の開戦に伴い、大坂城に浪人たちが詰めかけたと書きました。今回はその続きです。元大阪城天守閣館長岡本良一さんの著書『大坂冬の陣夏の陣』(創元社・創元新書)を参考にして進めさせていた…

河井寛次郎の「仕事のうた」

陶芸家河井寛次郎の業績を振り返るNHKの美術番組で、河井の手になる「仕事のうた」が登場してきました。実際には歌われることはありませんが、河井自身の仕事にかける意気込みをまとめたメッセージソングといった趣でしょうか。難しいことは書いていないのに…

転職のフォークロア(7)素浪人を温存する社会

前回は藤沢周平「証拠人」のエピソードを紹介しました。主人公の素浪人佐分利七内は、物語のラストで帰農します。刀をクワに持ち替えて、新たな人生に立ち向かっていきます。 七内さんのように、さまざまな事情から、禄を失い、浪人を経て農民へ転職した御仁…

転職のフォークロア(6)関ヶ原の合戦後の転職事情

藤沢周平の「証拠人」。短編集『冤罪』(新潮文庫)の冒頭を飾り、藤沢作品の中でも、個人的にはベストテンに食い込んでくる名作のひとつです。 主人公は、関ヶ原の合戦で敗れて失業した浪人佐分利七内。合戦後、二十年たっても、いまだ仕官に至らず。河川工…

転職のフォークロア(5)怒涛のポテンヒット

――私自身を含めて、あまり自慢できるわけではありませんが、連敗記録も立派な戦績です。 前回のブログで、このように書きました。一社員記者、編集局長、非正規の契約記者など、働く形態は違いますが、連続して深くかかわった三つの夕刊紙と、ひとつの地域情…

転職のフォークロア(4)「履歴書」の魂の叫び

なかなか希望の職種に付けずに、悶々としている人たちがたくさんいらっしゃるでしょう。世の中には、大手金融、総合商社、外資系コンサル会社などを自由自在に移動しながら、キャリアアップに忙しい経歴の人たちが、ときおり登場されますが、どこか違う星の…

転職のフォークロア(3)「流れ板」のリリシズム

漫画やアニメは専門外で、決して勤勉な読者とはいえません。漫画の世界にはほとんどかかわったことがありませんが、漫画で仕事や職業人がどのように表現されているか、それなりに興味があります。 転職のフォークロア、料理人の包丁つながりで、「包丁無宿」…

「声が小さいっ!」「やり直しい!!」

本日は大阪・京橋から京阪電車にて、京都へ。PR誌の月に一度の定例編集会議に出席しました。会議を終えて、市内をぶらり歩いたときの発見を報告いたします。 昨日は料理人の「修業」の世界を論じましたが、本日はお坊さんの「修行」のお話。とある古刹(こさ…

転職のフォークロア(2)「包丁一本さらしにまいて」

昔ほどではないにしても、転職にはいまだに後ろめたさがつきまとう。数少ない例外のひとつは、料理人の世界でしょう。 料理人たちは転職を否定しません。むしろ、若いころはどんどん店舗を移り、新しい親方のもとで修業に精を出す。行く先々で未知の食材に出…

転職のフォークロア(1)中心と周縁を自在に往還

山口昌男さんと展開した松岡正剛さんの仕事論、いかがでしたか。「はか」という人生の評価基準と、「隠居」という生と死を還元する人事システム。先人たちの知恵を一端を教えていただきました。 読んでいるうちにあれこれ思いが触発されてきました。 たとえ…